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オレンジ宇宙制作室

2007年5月12日

 彼の家の外壁には、ちょうど名刺一枚分の厚みと同じくらいの細い隙間がある。 勝手口の横で、目の高さくらい。縦幅はだいたい十センチくらいだろうか。 この隙間は、ピーマンの種を入れるためのものらしい。 彼は子どものころ、間違 […]

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2007年5月12日

 三十路を前にしてやっと結婚が決まった。 私は、たんすの奥にしまっておいた両親を取り出し、畳の上にそっと広げる。 成人式以来だから、もう十年ぶりに近い。深く刻まれたしわが年月を物語っていて、私は思わず涙ぐんだ。「お父さん […]

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2007年5月12日

 彼女はずっとウサギが来るのを待っていた。 彼もずっとウサギが来るのを待っていた。 彼女は途中で待てなくなって、ウサギを探すため電車に乗った。 彼は途中で待てなくなって、上着を買って帰った。 雪はゆっくりと降っていた。

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2007年5月12日

 こっそりと窓から抜け出して、あたしは雨の中を走る。今夜は待ちに待った雨だった。 お気に入りのセーターの上にコートを着て、その上に雨合羽を着た。靴は新品の赤いラインの入ったスニーカー。今日のために用意したのだ。 あたしは […]

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2007年5月7日

「舞踏会に着ていくドレスがないの」とそこらじゅうで声がする。 騒ぎ立てる彼女たちを踏まないように注意して、僕は窓に近づいた。錆び付いた鍵を回し、力いっぱい窓を押し開ける。湿っぽいカビ臭い空気の部屋に外の風が一気に吹き込ん […]

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2007年3月31日

 海で自分を助けてくれた人魚に会いたくて、声を渡す代わりに海で暮らせるような体に変えてもらう人間の王子様の話。小さい頃によく聞かされたおとぎ話だ。 もうこの年になってそんな夢みたいなこと信じているわけじゃないけれど、人間 […]

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2006年10月28日

 南中した満月が輝く絨毯を広げている路地を進む。道案内は痩せた黒猫だ。 あたしは小さなトランクに入る限りの着替えを詰めて、それだけを持って家を出た。本当なら箒くらい用意すべきなのかもしれない。でも家族に内緒で旅に出るのに […]

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2006年2月18日

 突然、彼女の目の中に☆が見えた。☆だ。銀色に見える。僕はまばたきをした。目をこすった。けれど、彼女の目の中の☆は消えない。「君さ、目おかしくない?」「何のこと?」 彼女は聞き返す。気づいていないのだろう。僕は言うべきか […]

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2005年12月17日

 砂漠のようだった。舞い上がる砂埃に視界がかすむ。「朝だね」 僕の隣りに立ったドーナツがそう言った。いつの間に起きてきたのだろう。 僕はうなずいた。 そのまま僕らはしばらく黙って立っていた。何も話さなかった。昨日のことも […]

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2005年12月17日

 彼は左足を枠に入れた。「これが五月」 私は右手を枠に入れた。「これは八月」「そう。じゃこれは?」 彼は頭を枠に入れる。「二月?」「違う」「十二月?」「違う。林檎の」 鍵のかかる音がして、彼の声は途中でとぎれた。

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