突然、彼女の目の中に☆が見えた。☆だ。銀色に見える。僕はまばたきをした。目をこすった。けれど、彼女の目の中の☆は消えない。
「君さ、目おかしくない?」
「何のこと?」
彼女は聞き返す。気づいていないのだろう。僕は言うべきかどうか迷った。気づいていないのなら言うべきじゃないのかもしれない。僕の錯覚かもしれないし。そうだ、もっと近くで確かめてみよう。
「あのさ、ちょっとこっち見て」
僕は、水の入ったタンブラーをよけて、彼女の手をとる。身を乗り出して顔を覗き込んだ。彼女は驚きもせず僕を見つめる。
僕は彼女の目の中を確かめた。やっぱりそこには☆がある。☆だ。銀色の☆だ。かすかに光っているようにも見える。
彼女は逆に僕の手を握り返し、ウェイターを呼んだ。
「やっぱりテイクアウトにするわ」
「包みますか?」
「大丈夫。このまま帰るから」
「恐れ入ります」
ウェイターが一礼して下がる。彼女は僕の手を引いて立ち上がった。僕も☆を見つめたまま、立ち上がる。角度が変わってもそれはやっぱり☆だった。銀色に光る☆だ。
彼女は僕を連れて店を出た。それでも、彼女の目の中の☆は消えなかった。
第55回タイトル競作【選評】○○○△△△
製品カタログ「スプーントウド」に修正して収録。