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ちくちく

 通学電車でよく乗り合わせるスーツ姿の男性は、名刺の角でちくちくと刺されている。誰だかわからない手が後ろから伸びて、首筋に名刺を当てているのだ。
 一方、私の首筋には赤いボールペンがちくちくと刺さる。誰が刺しているのかはわからない。振り返ると手はどこかに消え、前を向くとまた現れる。毎日続くうちにそんなものだと諦めてしまっていた。学校に着くといつも首の一箇所が真っ赤になっている。
 今朝はたまたま名刺の角の人が目の前にいた。今日もちくちく刺されているなぁと見ていたら、相手もそう思っていたのか、同情の視線を向けられた。
 ふと彼が私の首筋に手を伸ばしてボールペンを受け止めた。解放感にため息が漏れる。私も背伸びして彼に刺さる名刺を手のひらで受け止めた。彼もほっと息をついた。
 私は名刺を握りつぶし、彼はボールペンを引き抜いた。二人して後ろに放り投げると、なんだかおかしくなって顔を見合わせて笑った。

「20周年!もうすぐオトナの超短編」
峯岸可弥選 兼題部門(兼題:暴力) 投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/20-acd9.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2018/07/post-5ad7.html

豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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