「見ていられるとやりにくいんですけど」
アイシングを混ぜる様子を観察していると、弟子はちらっとこちらを見た。
「いいから続けろ」
弟子はボウルを指差す。厨房が暑いのか頬が赤い。レモンの呪文を唱えると、キラキラと星が降って、甘酸っぱい香りが漂う。
俺は味見して首を傾げた。工程も味も、自分と変わらないように思えるのだが。
「お前がアイシングを作ったときの方が客に好評なんだよなぁ。初恋の味がするんだと」
そう言うと、弟子は「えっ!」と身を乗り出す。
「俺にはさっぱりわからん」
首を振ると、弟子は「えー」と肩を落とす。
「なんで一番伝わってほしい人に伝わらないんだろう……」
「サブレ・シトロンのレシピ」
レモン1個分の香りを煙にして取り出し、くるくると巻き取る。それを丸めて生地を作り、オーブンで焼く。粉糖に卵白を加えて混ぜ、レモンの魔法をかけて、レモンアイシングを作る。十分に冷ましたサブレにアイシングを塗り、満月の光を一晩あてたらできあがり。
2017年10月28日開催の「第6回Text-Revolutions(テキレボ)」内ユーザー企画
第5回300字SSポストカードラリー
お題:お菓子
http://300.siestaweb.net/
上記企画で作成したポスカの本文です。
※2作掲載