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ポイント

 いつもならたくさん人が降りる駅なのに誰も降りなかった。それどころかさらに人が乗ってくる。最初から混んでいた車内はぎゅうぎゅう詰めだ。
 同じ時間の電車の同じ車両に乗っているはずで、遅延もしていないし、どこかの路線が運転を見合わせているというアナウンスもない。天候も悪くない。祝日でもない。普通の木曜日だ。
 電車はゆっくり走り出す。地下鉄だから、駅を離れると窓の外は暗くなる。
 さっきの駅でいつも降りていた人たちはどこに行ったんだろう。知っている人なんてひとりもいないのに、私だけ間違った電車に乗ってしまったみたいで不安になる。今この車両に乗っている人たちはどこまで行くんだろう。昨日と何が違うんだろう。
 電車が大きく揺れる。後ろから押されて視線を上げると、電車が並走していた。車体の色からして同じ路線だ。こちらと同じくらいぎゅうぎゅうに混み合っている。そう思ったとき、押されなくなったことに気付いた。自分の周りにスペースが出来ている。明らかに乗客が減っていた。
 並走していた電車との距離が段々開いていく。それは、線路が分岐していくのに似ていた。向こうの車両との距離が開くにつれて、こちらの車両が空いていく。並走していた電車が見えなくなったとき、こちらに残った乗客はいつもと同じくらいの人数だった。皆、何事もなかったかのように、平然としている。
 次の停車駅のアナウンスが流れる。私がいつも降りる駅だ。しかし、本当にいつもの駅だろうか。日常と非日常、私は今どちら側にいるのだろうか。

2017年10月12日
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