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川、夜の

 ビルの裏は川だ。流れているのか一見判断しがたい暗い淀み。非常階段からの視界は、薄明るい夜空と港の夜景。赤い光が点々と灯る。
 タバコの煙を見送ってから、もみ消すと、電話をかけた。
 しばらくして非常ドアが開く。後輩の顔が覗いた。
「いちいち私呼ぶのやめてくれません?」
「開けっ放しにしたら警報鳴るだろ?」
「下回ればいいじゃないですか」
「めんどくさい」
 文句を言いながらもどことなく楽しそうだから、構いたくなるのだ。
「お礼にこの夜景をあげよう」
「はあ、まあ、ありがとうございます。おいしいものの方がうれしいんですけど」
 芝居がかって両手を広げると、彼女は呆れた顔をした。

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