ついでに散歩するから、と彼は茶色くてしっぽが長い犬を連れてきた。駅までの道を並んで歩きながら、彼に聞く。
「何犬?」
「オオカミ」
「へー、これが?」
私は、彼が抱えている風呂敷包みを指差す。
「それ、何?」
「オオカミ」
「それも?」
彼は私にリードを持たせ、風呂敷を広げた。セピア色の艶々した頭蓋骨だった。大きな牙がある。手を伸ばしたら噛みつかれそうになった。がちがち鳴る口を押え、彼は私から遠ざける。
「危ないよ」
「ごめん、生きてると思わなくて」
「ああ、最初に言えばよかったね」
彼は小さく笑って、愛おしそうに頭蓋骨を撫でる。
「まだ生きてるんだ」
彼に見惚れていると、突然オオカミがリードを引っ張って、私は転んでしまった。四つん這いになった私を見兼ねて、彼がリードを持ってくれる。
彼に促されて歩き出すと、てとてとと軽い足音が背後から聞こえた。私は首から繋がれたリードを伝うように彼を振り仰いで、尋ねる。
「これ、何の足音?」
「オオカミ」
「え、これも?」
彼に抱えられた私の頭蓋骨が驚きの声をあげる。
そんな私たちの頭を撫でて、彼は微笑んだ。
「まだ生きてるんだよ」
超短編「絶滅動物」投稿作
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