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あさり

 重い頭を持ち上げて振り返ると、入り口の引き戸の磨りガラスの向こうが明るい。ほとんど眠れていない。
 昨夜もまた吐いてしまった。のろのろと起き上がり、枕元に転がったあさりを拾う。
「味噌汁にして」
 いつのまに目を覚ましたのか、彼が言った。声が笑っている。
「簡単に言わないでよ。砂抜きしなきゃならないんだから」
「いいよ。待ってる」
 それだけ言うと彼は寝返りを打ってしまう。すぐに寝息が聞こえた。
 あさりの貝殻はざらざらしていて、気持ちが悪い。私の中には砂が詰まっている。
「待ってる」
 彼の言葉を小さく繰り返すと、私の海がさざなみを立てた。

2016年4月9日
豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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