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白鷺

 夢の中には砂が詰まっていた。
「これが愛だよ」
「何それ。砂は砂でしょ」
 彼が言うから私は鼻で笑った。
 彼は私の反応に構わず、砂を山にして、何か作り始める。
「何それ」
「姫路城」
 私は斜め後ろに座って、彼がお城を作るのを見ていた。ものすごく複雑な造形を悩みもせずに削り出す。
「あんたの中には何が入ってんの?」
 すごいと感心するより気味が悪くなって聞く。
「愛」
「何なの、愛って」
 私は顔をしかめる。彼は一人で楽しそうに笑って、「できた」と立ち上がる。両手を叩いて砂を払うと、お城は真っ白い鳥になって飛んで行ってしまった。
「何あれ」
「白鷺」
 晴れだか曇りだかわからない半端な空に、白い鳥が輝いている。見るまに遠く小さくなった。
「意味わかんない」
「夢の中だからね」
 彼はそう言うと砂になって崩れた。
「私への愛はないのかよ」
 私は彼の残骸を蹴散らしてやった。

2016年4月9日
豆本掲載作
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長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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