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金蓮花

 まるで酔った気がしないのだと言うと、女将は首を傾げた。
「何をお飲みになったの?」
「コーヒー」
「まあ」
 大げさに驚いて、レタスの上に花びらが乗ったサラダを私の前に置く。黄色、橙色、朱色が躍り、目がチカチカする。
「それから、これもどうぞ」
 女将は、マグカップをサラダの隣に並べた。匂いからしてコーヒーだ。さっき飲んだと話したばかりなのに。疑問が顔に出たようで、女将はふふふと笑った。
「これは、夜明けのコーヒー」
 そう言われて振り返ると、入り口の引き戸の磨りガラスの向こうが明るい。
「いつの間に?」
「さあ、いつかしら。本当は酔ってらしたんでしょ」
「そんなはずはないんだが」
「もっと酔ってしまえばどうでもよくなるんじゃありません?」
 促されコーヒーを飲むと、黄色、橙色、朱色がくるくる回った。

2016年4月8日
豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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