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HOME > オレンジ宇宙制作室 > アリゾナの蝶

アリゾナの蝶

 砂漠のようだった。舞い上がる砂埃に視界がかすむ。
「朝だね」
 僕の隣りに立ったドーナツがそう言った。いつの間に起きてきたのだろう。
 僕はうなずいた。
 そのまま僕らはしばらく黙って立っていた。何も話さなかった。昨日のことも今日のことも。
 一瞬、風が弱まり砂埃が収まった。
「ああ、日の出だ」
 僕は指差した。少しだけ視界の晴れた今、山の向こうから朝日が昇るのが見える。
「サボテンみたいだ」
 ドーナツはそう言って目を細めた。
「朝日が?」
「いや、あれ」
 言われた方向を僕が見たときにはもう砂埃で見えない。
「見えないよ、砂埃がすごくて」
「違う。鱗粉」
「え? 蝶?」
「そう。ほら、見えた。サボテン」
 ドーナツが指差す先に見えたのは、立ち並ぶビル群だった。

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