帰り道、風に舞う花びらを目で追うと、夜空には大きな文字が浮かんでいた。
「読める?」
手を引いて彼の耳元で聞く。
「あれ文字なの?」
「たぶんね」
「なんだ、君だって読めないんじゃないか」
彼はそう言って、私のお気に入りの角度で笑った。
繋いだままの指で空の文字をなぞる。払い、点、点、払い。
「どんなことが書いてあるんだろうな」
点、横、払い。なぞりながら「たーぶーん」と抑揚をつける。
「世の中にない何かなのよ」
回文超短編
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/post-ba53.html
イベントで考えた回文「世の中にない何かなのよ」を、超短編に仕立てたもの。
修正の上、豆本「春の夜」収録。