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さようなら私たち

 気がつくと足元にたくさんの遺体があった。全員が私だ。刀か鉈か、わからないけれど、背中がぱっくりと割れている。
「だいじょうぶ?」
 どう見ても死んでいるのに、呆然としたまま尋ねると、遺体が痛いと答えた。
「痛いよ、痛い」
「だめだ。みな、涙目だ」
 遺体は口々に訴える。
 それは段々と言葉にならないうめき声に変わった。私は耳を塞いだけれど、何の意味もない。自分の内側からも声は聞こえているのだ。
 突然、カッコウの声が響いた。うめき声がぴたりと止む。澄んだ空気に遺体が溶けていく。霞んだ視界が開けて来たとき、電線にとまる鳥を見つけた。
「カッコウ」
 思ったよりも大きな鳥が身を揺らしている。
 近寄ろうとすると、どさどさと空から大きなものが降ってきた。たくさんの遺体。全員が私だ。
 私はカッコウを探す。くぐもった声を頼りに助け出そうとしたけれど、遅かった。十は鳴かず、私の遺体の下、わずかな羽音。静寂が訪れるまでは一瞬だった。
 気がつくと私は足元に倒れている。刀か鉈か、わからないけれど、何かをぎゅっと握りしめていた。

「回文超短編」投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/post-ba53.html

・入っている回文
刀か鉈か(かたなかなたか)
遺体が痛い(いたいがいたい)
痛いよ、痛い(いたいよいたい)
だめだ。みな、涙目だ(だめだみななみだめだ)
十は鳴かず、私の遺体の下、わずかな羽音(とおはなかずわたしのいたいのしたわずかなはおと)

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/04/post-5e8d.html
千百十一賞受賞

豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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