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指ぬきのこと

「みきのことは好きだと思ってるよ。でも、まきのことも好きなんだよ。ほら、楽器に例えるとベースとギターみたいな、さ。俺バンドやってるから」
「意味わかんないんだけど」
 私はそう切り捨ててから、彼に聞く。
「さきのことは?」
「え? さき? なんで知ってんの」
 無言で睨むと、彼は慌てて言い訳を始めた。
「いや、さきのことも好きだけどさ、それはほら、楽器に例えるとヴァイオリンとヴィオラみたいな。俺クラシックもやってたから」
 それは初耳だけれど、楽器のことはどうでもいいのだ。私は改めて彼を睨む。
「私、ゆきのことだって、あきのことだって、知ってるんだよ。うきのことも、かきのことも、くきのことも、どきのことも、ぼきのことだって全部知ってるんだから!」
「それじゃあ、指ぬきのことは?」
 今までとは打って変わって、落ち着いた声音で彼は聞いた。
「指ぬき? まさか、そんなものにまで手出してるの?」
 逆上する私の左手を取って、彼はすっとひざまずいた。
「結婚しよう」
 ぽかんと口を開ける私の薬指に、返事を待たずに、彼は指ぬきを嵌めた。

三題噺「キノコ」「楽器」「指ぬき」への投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2016/08/post-d951.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2016/11/post-6cf8.html
栗田ひづる賞(大賞)受賞

豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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