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謎を持つもの

 最後の客は、部屋を一通り見てから、迷わず私の前に立った。カップをテーブルに戻し、私は彼を見上げる。
「謎は見つかりまして?」
「ええ」
 客は微笑んで、優雅に腰を折り私の手を取る。彼は私を審判に選んだようだ。手を引かれるままに私は立ち上がった。ルールに則って、尋ねる。
「あなたはどれが謎だと思われたのかしら?」
「あなたです。あなたが一番魅力的な謎だ」
 そう言って、客は私の手に口付けようとした。しかし、それは未遂に終わった。私の腰を後ろから誰かが引き寄せたからだ。振り返らなくてもわかる。黒の侯爵だ。赤の侯爵も客と私の間に立ち塞がっている。こんな風に守られるとは思っていなかったため、私は内心とても驚いた。しかし、客の前、ゲームの最中だ。黒の侯爵の腕を軽く叩き離してもらうと、赤の侯爵の背中に手を添えて退いてもらう。
 私は二人の侯爵を従え、客の前に立った。――膝を伸ばして、真っ直ぐに。何度も注意されたセリフが頭の中で聞こえる。
「不正解ですわ。わたくしに謎はありません」
「そうでしょうか。この部屋で一番価値のあるものはあなたでしょう? 彼らがそれを証明している」
 二人の侯爵と、固唾を飲んで見ている他の紳士や貴婦人を見渡して、客は不敵に笑う。
「あなたの謎を解かせてくれませんか?」
「わたくしに謎はありませんわ。どうぞお帰りください」
 私は丁寧に整えた微笑みを浮かべる。緑の侯爵夫人も合格点をくれた表情だ。客の反応は見ずに、礼をしてから踵を返すと、黒の侯爵が隣に立った。彼の腕に手を預け、奥の間に繋がるドアに向かう。背後では赤の侯爵が客を帰そうと何か言っている。
 私に謎はない。しかし、秘密はあった。
 奥の間に入ると、隣の侯爵を見上げる。
「珍しいですね。あなたがたが失敗するなんて」
「あなたに他の男が触れるのが耐えられなかったんですよ」
 こちらを見た侯爵が、真剣な顔でそんなことを言うから私は思わず吹き出してしまった。
「あはっ、おかしっ。何それ」
「言葉遣いが戻っていますよ」
 憮然とした顔で注意され、私は慌てて口元に手をやる。
「失礼いたしましたわ」
 黒の侯爵はうなずきながら、なぜか少し肩を落としていた。

2016年3月11日
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