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木の目

 エスカレーターを降りて、かかとを地面につけると充電が始まる。
 森の中の高い本棚は、三段上の書名も読めない。古いポスターは、赤い線だけが鮮やかに残る。苔の生えたベンチ。湿った匂い。私は木の間を巡って、あちこち見て回った。
 一冊だけ新しいクラフト紙のカバーがかけられた文庫本を見つけ、私はそっと指をかけて引き出す。これだと思った。もったいぶって、表紙を撫でてひんやりした感触を確かめてから、本を開く。やはり、白紙だった。その後のページも全て白紙。
 私は、ポケットの底にしまいっぱなしだった小さな種を、本の真ん中あたりに挟む。両手で持ち、祈るように額を寄せたのは無意識だったけれど、正しかった。
 肋骨が軽い音を立てて、充電が完了したことを知らせる。
 私は文庫本を棚に戻す。その背表紙には、タイトルが書き込まれていた。

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