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HOME > オレンジ宇宙制作室 > アンドーナツの穴

アンドーナツの穴

「なんで? ねぇ!」
「だから! お前とはそういうんじゃねぇし!」
「おかしいんじゃない?」
「俺がかよ!?」
 勢いで振り返る。びくっとして一歩後ろに下がった桃子に気付いて、声のトーンを落とす。
「おかしいのはお前だろ」
「あたし、おかしくないし。全然普通だし」
 桃子は一度俯くと、思い切るようにきっと顔を上げて、右手を伸ばす。
「手繋ぐのは?」
 強い視線の奥の瞳が揺れていた。俺はため息をついて、桃子の手を握る。桃子は驚いた顔で瞬きをした。
「やっぱ、あんたの方がおかしいでしょ」
 そう言って少し笑うから、俺はほっとした。まあ、確かにおかしいのかもしれない。
 桃子はそのまま俺の手をぐっと引いて、抱き付いてくる。
「もう遠慮しないから」
 抱えた袋の中でアンドーナツが潰れた。

2015年11月8日
豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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