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キンモクセイ

 キンモクセイに尾行されている。
 違和感に気付いたのは五日前。キンモクセイと分かるようになったのは一昨日。
 今日はもう気配が濃厚だった。どこに行ってもついてくるのに、振り返っても見当たらない。一体何がしたいのだろう。用があるなら話しかけてくれたらいいのに。
 駅からの帰り道、キンモクセイの気配を感じた瞬間、僕は走った。すぐ先の路地を曲がり、一呼吸置いてからまた元の道に飛び出す。すると、目の前に驚いた顔のキンモクセイがいた。オレンジ色のワンピース。濃い緑の長い髪。慌てて逃げようとする細い腕を、僕は捕まえた。そのはずだった。しかし、瞬間、ざっと風が吹いて、キンモクセイは散ってしまった。
 手を広げるとぱらぱらと小さな花が零れ落ちる。雲が出てきて、一気に暗くなった。

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