「旦那、この女、指が六本ありますぜ」
版元の持ってきた版下絵を指して、彫師は言う。
「直してもらってきてくだせぇ」
版元は少し考えてから、
「だめだ。時間がないんだ。お前、どうにかできるだろう。ちょちょっとごまかして指一本減らしてくれりゃいいんだから」
「ええっ! 私がですか?」
「そうだ。お前ならできる。いや、お前にしかできない!」
「まぁそこまで言われちゃ、やってみますが」
彫師は満更でもなさそうに、頬を擦る。版元は、任せたぞ、と肩を叩いた。
しばらく後、出来上がった主版を見て版元は首を傾げる。
「この女、こんな顔だったかな」
「ああ、指を減らすついでにちょちょっと変えておきました。唇が厚い方が私の好みなもんで」
彫師の心意気は、二百年以上を経て、画像編集ソフトやデジカメなどに自動補正機能として搭載されている。当然ながら、大抵の場合、オペレーターの好みは優先されない。
「モノの由来」投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2015/05/post-902a.html
結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2015/07/post-1c96.html
タカスギシンタロ賞、イベント大賞 受賞