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 星空の下を歩く。風が冷たい。昼間より厚着してきて正解だった。ジャケットのポケットに手を入れて、音楽プレーヤーを操作。同じ曲がもう一度流れる。寝静まった住宅地は人の存在を感じさせない。辺りは虫の声に包まれているのに、僕だけは無駄に明るい流行曲の中にいる。少しおかしくて、声に出さずに笑った。そこで、彼女に指定された角に気付き、曲がる。民家の間の狭い道には、破裂したような模様がいくつもあった。暗がりに目が慣れると、柿だと分かった。塀の上から柿の木が張り出している。潰れた柿を勢いをつけて避けたらスキップしているみたいになった。そのせいで、うっかり見えない階段を上ってしまう。こうなったら、もう月を目指すしかない。段々と透き通ってくる星空の中を歩く。おそらく彼女は柿のことを知っていて僕を呼んだんだろう。このまま上っていけばどこかで会えるはずだ。

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