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台風一過

 台風の中を歩いて帰宅したせいで、髪が短くなってしまった。肩甲骨あたりまでのロングだったのに、今は顎に届くか届かないかのショート。ショックで泣きそうになる。
 写真を撮って、彼に送る。
『どうしよう』
『何が?』
 なんで見てわからないの? 頭に来たから返信しないまま寝た。
 朝起きると、台風はもう通り過ぎていた。美容室に行くため出かける。透明度の高い空、ときどき吹く風は心地いい。一方で、道路は髪だらけで悲惨だった。散った葉っぱや小枝に絡まって側溝を塞いだり、マンホールの蓋にへばりついたりしている。すれ違う人のほとんどがショートになっていて、被害の深刻さを実感した。私だけじゃないんだと安心もしたけど。
 さすがに美容室は混んでいて、終わったらもう薄暗かった。スマホを出したところで、ちょうど彼からメッセージが届く。
『もしかして髪形のこと?』
『気付くの遅い!』
『写真じゃよくわかんないし、今から会いたい』
 仕方がないから機嫌を直して、彼に会いに行ってあげることにした。風が首筋を撫で、軽くなった髪を揺らす。満月に近い月が東の空に昇っていた。

2014年10月5日
豆本掲載作
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長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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