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ベーグル

 忘年会なのか楽しそうにしている人たちとすれ違う。
 目の端だけで見送ると、ため息が出た。
「さ」
「そんなこと言う資格があんたにあるの?」
 一音も出さないうちに、遮られる。
「ないよね?」
「ないよ。わかってるでしょ?」
「わかってるから、思うくらいしたっていいじゃん。誰かに言ったりはしない」
 私は言葉にせずに、曖昧なまま気持ちを確かめる。外に向いた意識が見知らぬ男女の会話を拾う。強いビル風にストールがはためく。信号で止まる。渡ればもう駅だ。今日もまっすぐ帰る。
「何か買ってもいいよね」
「ベーグル」
 私はベーグルの食感を思い浮かべながら言う。
「あーはいはい」
 私は、ブルーベリー味売ってるかなと思いながら返事する。
 信号が青になって、一人に戻った私は横断歩道を渡る。

2013年12月29日
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