OPEN MENU
CLOSE MENU

 チャイムが鳴ったから確認もしないでドアを開けてしまい、少しだけ後悔した。ドアに当たらないようにベタっと地面に貼りついているのは腕だった。肘から下。左手だ。そこで初めて、今年になってすぐに失くした自分の腕だと気付いた。
「あっ!」
 思わず声を上げると、向こうも私が気付いたことを悟ったようで、手首のバネを使って私の胸に飛びついてきた。ジャンプする様は、何かのテレビ番組で見たCGのツチノコにそっくりだった。
 セーターにぎゅっとしがみつく左腕を、右手でそっと撫でる。記憶よりも筋肉がついていて、ああ苦労したんだな、と思うとちょっと泣けてきた。
 私の方も腕の方も、ちぎれた部分の傷はふさがっていてもう戻らなかった。仕方がないから、そのまま部屋に置いている。思い通りに動かせるわけでもなく、あまり役には立たないのだけど、ここにいると思うだけで少し安心するから不思議だった。

豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

ページの先頭へ戻る