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ストロボスコープ

「日傘、いいの?」
 日向を歩くのに閉じたままだったから聞いてみた。
「うん。だって、日傘差してると近くを歩けないでしょ?」
 彼女は少し首を傾げるようにして俺を見上げる。まばたきがチカチカとまぶしくて視線を逸らすと、オレンジの花が目に入った。道沿いの家の塀からノウゼンカズラが溢れ出ている。
「あ」
 彼女が俺の手を握ってきた。思わず出てしまった声をごまかすために、道を横切って行く金魚を指差した。
「金魚飛んでる」
「ほんとだ。野良かな」
 ごまかしたのは分かっているだろうに、彼女は話に乗ってくれた。タイミング良く通りかかった金魚は野良にしては綺麗なヒレをしていた。すいすいと泳いで行き、あっという間に見えなくなる。
 金魚を見送っているとつないだ手を引かれた。笑顔で日傘を差し出される。
「持ってくれる?」
「ああ、うん」
 彼女がまばたきするたびに光る。まぶしくて仕方ない。
「わかったから。あんまり見ないで」
 そう言っても彼女は楽しそうに笑うだけで聞き入れてはくれない。
「何やっても許されると思ってない?」
 俺はため息をついて、日傘を受け取って歩き出す。ときどき腕と腕が触れて、強い光を発する。彼女は楽しそうに、どうでもいい内容の話をしている。影を感じて見上げると、お祭りの旗が空の高いところで舞っていた。

2013年6月30日
豆本掲載作
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長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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