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薄暗くて生暖かい

「ここは安全だよ」
 彼はそう言って、私の手を引いてどんどん奥に進む。地面が少し柔らかい。風というほどでもない空気の流れが湿った土の匂いを揺らす。洞窟の壁はごつごつした岩で、不用意に触ると怪我しそうだった。
「何かいそうじゃない?」
「うん。いる」
「いるの? 大丈夫なの?」
「だから安全なんだよ」
 彼は振り返って笑顔でうなずく。
「何がいるの?」
「僕の両親」
「え? 両親って? ここに?」
 数メートル先でカーブしていて奥がよく見えない。彼の両親に初めて会うのにこんな格好でいいのか、と自分の服装を見直す。ほとんど遭難していたようなものだから、あちこち泥だらけだ。
「ねぇ、私、大丈夫かな?」
 空いている手で髪を整えながら彼に聞くと、私の手を握る彼の手に力がこもった。
「大丈夫。安全だから」

2013年5月1日
豆本掲載作
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長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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