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コンフリクト

 少しだけ遅刻してきた先生はいつもと違うメガネをかけていた。
「メガネ変えたんですか?」
「いや、これはスペア」
 駅のホームで正面から来る人を避けようとしたら相手も同じ方向に避け、それを二度繰り返した後ぶつかったのだそうだ。
「ちょっと当たっただけだと思ったのに、なぜかものすごく吹っ飛ばされて、メガネのフレームが曲がっちゃってさ」
 そう言ってかけているメガネを少し持ち上げる。
「どう? こっちの方が似合う?」
「え。えーっと・・・」
 どっちでもいいです、という言葉を飲み込んで曖昧に笑う。
 受付が開くと同時に駆け込んできた患者さんが、先生と同じようなことを言っていた。駅のホームで人を避けきれなくてぶつかって前歯が欠けたそうだ。私が勤務する歯科医院が近くにあるのを思い出してここへ来たらしい。
「惚れ直した?」
 もちろん冗談だろうけれど、そう聞かれて、元々惚れてないですから、と返したのはつい先ほどのこと。
「患者さん通していいよ」
 先生が言う。二人を会わせて大丈夫かと少し不安に思う。また吹っ飛ぶんじゃないかしら。

2013年4月13日
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