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ハッピーエンド

 養殖施設の女を連れてD氏が逃げた。女は捕獲されたが、D氏は見つからなかった。女の体内にD氏のチップの反応があり、食べられたのではないかという話になった。
 当然ながら次の餌はその女に決まった。女が私のクローンで、D氏が私の助手だったせいで、執行役は私になった。私には好都合だった。
 ガラスを隔てずにクローンに会うのは初めてだった。条件を変えてシミュレーションした姿のようなもので、似てはいるが何もかもそっくりにはならない。
 私が話しかけようとすると、女は何かを吐き出した。足元まで滑ってきた小さな黒い金属はD氏のチップだった。息を飲む。
「カレはアナタから逃げたいと言った。ワタシはカレを助けた」
 女はおかしなイントネーションでそう言った。その無表情の奥に嘲笑の気配を感じた。私は無言で女を突き落とす。女はあっという間に食べられた。他の研究員たちがデータを取るため檻に駆け寄る。私はその場を離れた。途中でD氏のチップを思い切り踏み潰した。
「ワタシはアナタに殺されたかった」
 落ちる寸前にワタシが見せた幸せそうな笑顔がいつまでも消えなかった。

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