OPEN MENU
CLOSE MENU

HOME > オレンジ宇宙制作室 > アネクメーネ

アネクメーネ

 突然、手元も見えないほどの吹雪になった。上からも下からも雪が吹き付ける。寒いのか痛いのかよくわからない。振り返ると、窓越しに太陽がなんとなく見える。外は変わらずいい天気だ。
 慌てて、手探りで彼女の手を取り、両手で握ってなだめる。
「落ち着いて。誤解だよ、誤解。どこにも行かないから大丈夫」
「ほんとう?」
 涙声で彼女は聞く。僕は力強く何度もうなずき返した。彼女が落ち着きを取り戻すにつれ雪も収まってくる。勢いがなくなると、積もった雪はあっという間に溶けて消える。
 ちょっとした失言ですぐこうなってしまう。彼女に悪気はないから困る。
「ずっと一緒にいてくれる?」
「ああ」
「私を置いて出て行ったりしない?」
「もちろん」
 外は灼熱の砂漠なのだから。

2013年1月29日
豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

ページの先頭へ戻る