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新しいたまご

 私は石段を上る。すぐ前に去年の私がいる。その前には一昨年の私。石段のずっと上まで私が連なっている。後ろにはもちろん誰もいない。
 両脇の桜は葉が落ちて、偽物みたいにはっきりとした色の空が枝の向こうに見える。低い位置にある太陽が眩しい。私たちは黙々と上った。狭い境内は私でいっぱいになった。
 過去の私たちに続いてお参りすると、持っていた袋から鳴き声が聞こえた。見ると、十個あったたまごが全て孵化していた。
 買い物の帰りだったのを思い出し、私たちは石段を下りる。今度は私が先頭だった。一段下りるごとに一人ずつ過去の私が私に溶けて消えていく。ひよこの鳴き声も減っていく。
 石段を下りきり鳥居をくぐると、私は一人だけになっていて、手に持った袋には大きなたまごが一個だけ残っていた。

2013年1月3日
豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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