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増殖する愛

 お皿の縁を銀のスプーンで二回叩く。
 コン、コン。
 プラスチックのお皿は音が響かない。
 叩いた直後、お皿の上のプリンが揺れる。右、左、右。再び左に揺れた瞬間、プリンの右にもう一つプリンが現れた。新しいプリンも元のプリンと同じ大きさだ。
「わぁー!」
 列の先頭の少年が歓声を上げる。
「さあ」
 促すと、少年はおずおずと両手を差し出した。私は彼の手のひらにプリンを一つそっと移す。
「ありがとう」
 少年はまぶしいほどの笑顔で礼を言って、プリンを見つめながら揺らさないようにゆっくり歩いていった。
 今度は少年の後ろに並んでいた別の少年が列の先頭になる。私はお皿の縁を銀のスプーンで二回叩く。
 列は丘のふもとまで続いている。

瓢箪堂のお題倉庫
http://maruta.be/keren/3164

2010年5月7日
豆本掲載作
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