OPEN MENU
CLOSE MENU

HOME > オレンジ宇宙制作室 > 朝の風景

朝の風景

 クリームソーダを探して旅に出た。
 四日目の朝、カッコウの声が聞こえた。まだ薄暗い住宅街。私の知っている人はこの街には誰も住んでいない。
 声を頼りにカッコウの姿を探すけれど、全然見つからない。きょろきょろする私に、帽子のリボンがピッとのびて、反対側の歩道の街路樹を指した。骨みたいな細い枝に白い花が咲いている。ハナミズキだ。大きな鳥がとまっていた。
「あれがカッコウ?」
 リボンがひらめいてうなずく。よく見ると、聞こえる声に合わせて鳥の体が揺れている。カッコウが鳴くたびに、波紋が空気を揺らして広がる。縄張りの結界だ。
 私は道路を渡ってそっと近付く。しかし、上ばかり見ていたからつまずいてしまった。バランスを崩してハナミズキの根元に倒れた。帽子は汚れたくないからだろう、つまずいた瞬間に私の頭からさっと離れて、私が倒れてから背中の上にぽとんと降りてきた。
 ため息をつきながら起き上がると、そこは住宅街ではなかった。建物は何もない。地面は見渡す限り苔に覆われていて新雪のように柔らかい。私の隣りにハナミズキ。見上げるとカッコウはそこにいた。
 私が気付くのを待っていたかのようなタイミングで、カッコウは一声大きく鳴く。
 その声を見送ると、ずっと遠くに山が見えた。白くて丸い頂。あれはきっとバニラアイスだろう。

2010年4月 発行「東京グルタミン」2010年春号。テーマ「緑(green)」

豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

ページの先頭へ戻る