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胡桃割り人形の錯乱

 胡桃割り人形が錯乱したと言って隣りの女がやってきた。
「なぜ僕のところに?」
 待つこと二秒。回答はない。
 質問を変える。
「どういうこと?」
「あのね、これ、見て」
 彼女は僕の鼻先にがちがちと歯を鳴らす人形を突きつける。確かに錯乱しているように見える。
「それでね、これ」
 彼女は反対の手に持っていたワインの瓶の口を、人形にくわえさせる。人形は瓶の口をもぎとるようにして、口のガラスごとコルクを抜いた。
「ね?」
 彼女は誇らしげに瓶を見せてから、
「せっかくだから、これ、一緒に飲まない?」
 胡桃割り人形は瓶の口とコルクを吐き出して、がちがちと歯を鳴らす。落ちた瓶の口は切ったように綺麗に割れていて、瓶の中にはガラス片は全く入っていない。
「意外と冷静だね」
 僕がそう言うと、彼女と人形は同時に舌打ちをした。

瓢箪堂のお題倉庫
http://maruta.be/keren/3164

2010年3月15日
豆本掲載作
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