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東京に空がない

 見上げると鍾乳石のようにビルが垂れ下がっている。ビルの根元には道路が通っている。こちらの東京とそっくり同じ東京が鏡に映したように上にも広がっている。いつこうなったのか分からない。
 隣りを歩く彼がふわりと宙に浮く。慌てて手を掴もうとしたら速度を上げて飛んで行ってしまった。手を振る姿が上のビルの影に入って見えなくなる。
 東京がこうなってから定期的に上下が入れ替わるようで、地面に固定されていないものは飛んで行ってしまう。私ももう三度上下を往復した。上がっているはずなのに、上の東京に近づくといつの間にか落ちている。見上げるとさっきまで立っていた東京が上にある。地面に近づくと減速するから怪我をすることはない。移動してしばらくするとまた誰かが浮いていく。
 時間を計っているんだと彼は言っていた。
「美味しくなるまでの時間」
「だから東京から出られないのね?」
「そう」
「どのくらいかかる?」
「さあ、わからない」
 その後、二人でお互いを味見してみたのだった。
 急に足の下に何もなくなり、体が浮いているのだと気付いた。上に着いたら彼に受け止めてもらいたいなと思って、私は近づくビルの間に目を凝らした。

500文字の心臓タイトル案より

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