「ねぇ、まだ見つからないの?」
彼女の声が直接頭に届いた。振り返ると、彼女は形の崩れた頭を両手で支えて、フェンスに寄りかかって座っている。
「まだに決まってんだろ」
ここは骨男爵の庭と言われる広い草原。このどこかに骨男爵の奪った骨はあるはずだけれど、草しか見えない。
「てかさー、なんで俺が捜さなきゃならないわけ? よくわかんない男に付いて行くおまえが悪いんじゃねぇかよ」
「だってぇ、カッコよかったんだもん」
うっとりとした甘い声が届く。頭にきた俺は、彼女の横のフェンスを蹴った。
「馬鹿じゃねぇの。やってらんねぇ。自分で捜せよな」
そして、彼女の隣りに座る。
「じゃあ、あんたの骨貸してよ。自分で捜すから」
彼女はふよんと顔の肉を揺らして、たぶん笑った。
「断る」
「何よ。キスしてやるって言ってんじゃない」
体を引いた俺に体当たりするようにして、彼女は自分の唇を俺の唇に押し当てる。ぐっと吸い込んで、俺の頭蓋骨を抜き取った。
「ちょっと違和感あるけど、仕方ないか」
彼女はそう言って、いつもと少しずれた顔で笑う。俺は柔らかくなった頭を両手で支え、「早く返せよな」と声を送った。
第83回タイトル競作【選評】○○○○○○×(正選王)