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栗原さん

 朝見つけたかわいい雲に栗原さんと名前をつけた。二度と会うことはないと思ったのに、翌朝も栗原さんは空にいた。次の朝もその次の朝も。栗原さんの形はずっと変わらなかった。浮かんでいる場所も同じだ。僕は携帯のカメラで彼女とツーショット写真を撮った。青空が映えてまぶしかった。
 五日目の朝、雨が降った。慌てて外に出ると、空は一面雨雲で、栗原さんはどこにも見当たらない。雨が頬に落ちる。指先でぬぐうと甘い香りがした。
 それ以来、栗原さんに会えることはなかったけれど、僕に降る雨はいつも甘かった。

豆本掲載作
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長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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