手を取って、くるくる回りながら、笑い合う。
「君のこと、ずっと前から、知ってる気がするんだ」
「ええ、私も、そう思ってたわ」
僕らには周りの人たちなんて見えていない。音楽だけは聞き逃さないようにがんばっていた。でももう彼女の声だけに集中したい。
「出よう」
「そうね」
曲が終わる前に、彼女の手を引いて、ホールを抜け出した。
テラスから庭に出る。彼女を振り返る。月明かりに黒いドレスが輝いている。
「あら、いやだわ。溶けてる」
回りすぎたのね、と彼女は笑って、僕を見上げる。
とろりと溶けたドレスの裾から、黄緑色のペチコートが覗いていて、思わず唾を飲み込む。
彼女が近付く。僕も近付く。ほろ苦い味がした。
「ケーキの超短編」投稿作
選んだケーキ:ショコラピスターシュ
ショコラピスターシュの優秀作品賞受賞
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