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ミルクココア

 右足を横に伸ばしてかかとをつき、右手を斜め上に伸ばして、左手は腰に。右手には小さなスプーンを持っていた。後ろから見たら、ちょうどアルファベットのKのようなポーズで、電子レンジの前に立っている彼女。
 あまりにピシッと決まっていたから声をかけそびれた。その間に電子レンジの音が鳴り、彼女はポーズを崩してしまう。マグカップを取り出して振り返った彼女が、台所の入り口に立つ僕に気付いた。じっと見ているだけの僕を不審に思ったのか、
「どうかした?」
「何やってたの?」
「ココア作ろうと思って、牛乳温めてた」
「じゃなくて、さっきの決めポーズ」
「え? 見てたの?」
 彼女は真っ赤になる。
「おいしさパワーがスプーンに集まって、おいしいココアができるかなっていう・・・なんとなくね、なんとなく! そんな気がするときない?」
「おいしさパワー・・・」
 思わず繰り返すと彼女はますます赤くなった。
「あーもう、何言ってんだろ、私」
 俯いて、おいしさパワーの集まったスプーンを使って、マグカップにココアを何杯も入れる。たぶん入れすぎだ。
 僕は吹き出してしまう。
「僕にも、おいしさパワーでココア作ってよ」
 そうお願いしたら、睨まれた。

2014年11月17日
豆本掲載作
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長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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