欄干から見下ろす池は、蓮の葉が覆い尽くしている。僅かに覗く水面を錦鯉がちらちらと横切る。
私は緋色の襦袢の裾をからげ、欄干を乗り越え、勢いのまま飛び降りた。
蓮葉は私を受け止めることはなく、水音が箱庭の静寂を壊した。
仰向けに沈む。緋色が溶ける。若い蕾が頭上で揺れる。蓮葉の隙間からキラキラと空を横切る白と赤の魚。
欠伸をするとこぽりと泡がのぼっていった。すっかり空気が抜けた私は、目を閉じる。斑らになった襦袢がひらひらと揺らめいていた。
500文字の心臓 第162回タイトル競作『魚と眠る』投稿作
【選評】なし
「絹本墨画淡彩」というタイトルで書きかけていたものを流用。