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HOME > オレンジ宇宙制作室 > 出てゆく年、帰ってくる年

出てゆく年、帰ってくる年

 最中の中身は空だった。
「粒あん! 粒あんはどこだ!?」
 大声で呼ぶが返答はなかった。代わりに女中が戸口に現れる。
「旦那様。奥様はお出かけになりました。お戻りは年明けになるそうです」
「どういうことだ! 粒あんはどこにいったんだ!?」
「存じ上げません」
 女中は能面のような無表情で慇懃に頭を下げた。
「何だと?」
 気色ばむ私を平然と見返すと、
「奥様は欲しいものがおありのようでした」
「欲しいもの……? 新しい最中の皮か? そうだな、丸には飽きただろうな。いっそ特注してもいいぞ」
「いいえ。最中は閉じ込められているようで嫌だとおっしゃっていました」
「じゃあ何だ。どら焼きの皮か?」
「いいえ。お分かりになりませんか? お戻りは年明けなのです」
「そうか、餅か!」
 私が手を打つと、女中は大きくうなずいた。
「四角い方です。旦那様、くれぐれもお間違えなきよう」

「20周年!もうすぐオトナの超短編」
千百十一選 兼題部門(兼題:年の暮れ) 投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/20-acd9.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2018/01/post-7366.html

豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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