「あ、ライン来たよ」
ユリが天を指す。
「縄じゃん」
「マジ太すぎ。どんだけ目立たせたいんだって」
私の前に垂れ下がっているのは注連縄みたいなラインだった。先端にカナのアイコンが付いている。それを引いてメッセージを受け取るとユリが横から覗き込んだ。
「遅刻? ドタキャン?」
「遅刻。先に始めててだってさ」
カナに返信して、予約した店に向かう。歩き出すと、ユリがまた天を指した。
「もう一本ライン来てない? 細いやつ」
ほつれ糸のような頼りないラインだ。アイコンを見て、私は顔をしかめる。
「うわ、元カレだ」
「え、何、別れたの?」
おいしい酒の肴を見つけたと言わんばかりのユリに、私は首を振る。
「違くて、生前の。ほら今お盆だからさ」
「あーあの人ね。律儀ていうか執念深いっていうか」
「私がなんで死んだか分かってないんじゃないの? 誰がお前のところに帰るかっつうの!」
ふっと息を吹きかけると、現世からのラインは煙になって空気に溶けた。
「20周年!もうすぐオトナの超短編」
松本楽志選 兼題部門:テーマ超短編「此処と此処ではない何処か」投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/20-acd9.html
結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/11/post-aecc.html