OPEN MENU
CLOSE MENU

P

 休み時間のたびに、彼Qはうちの教室にやってくる。私Aの前の席が空なのを見て、あからさまにがっかりした顔をした。
「彼女Pは? どこ行ったの?」
「さぁ、わかんない」
 首を振ったけれど、本当は知っている。彼女Pは彼Bに会いに行っているのだ。次の授業が始まるギリギリに戻ってくる彼女Pは、いつも楽しそうに彼Bの話をするから。
「すれ違いばっかりなのに、なんで彼女Pを追いかけるの?」
 前から不思議に思っていたことを聞くと、彼Qは真剣な目で、
「そういう宿命なんだ」
 そして照れ隠しなのか、笑って付け足した。
「君Aにはわからないだろうけどさ」
「宿命……」
 その言葉はすとんと私Aの心に嵌った。
「わかるよ」
 私Aは大きくうなずく。目を瞠る彼Qに繰り返す。
「よくわかる」
 計算によると、彼Qと彼女Pは三日に一度は会うことができる。でも、私Aと彼Bはいつまで待っても出会えない。彼女Pは休み時間ごとに彼Bに会いに行けるのに。
「そういう宿命なんだね」
 ため息と一緒に飲み込むと胸が詰まった。

第153回タイトル競作『P』【選評】○△

微修正の上、豆本「超短編豆本 2017年春ノ巻」収録。

豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

ページの先頭へ戻る