彼の髪型はおかしい。前頭部に小さく一つ、お団子が作ってあるのだ。お団子と言っても綺麗な円錐形なため、ツノに見える。初対面のときは何かのコスプレかと思った。
「その髪、どうやってるの?」
「秘密」
手を伸ばそうとした私をするっと避けて、彼は笑った。
二度目に会ったときにもツノが作ってあったから、コスプレでないのはすぐにわかった。けれども、そんなのは些細なことだと思えてしまうほど、私たちはすぐに仲良くなった。
初めての夜、シャワーを浴びて戻ってきた彼の頭に変わらずツノがあるのを見て、やっと私も疑問を抱いた。
「髪、ほどかないの?」
全てが声になる前に唇を封じられて、質問は吐息になって消えた。
目が覚めると、彼はまだ寝ていた。あんなことをしたのに、ツノの形はちっとも崩れていない。私はそっと触れた。軽くつまむ。中に芯でもあるのかと思ったのに、柔らかい。確かに髪の毛の感触がある。どうやって結ってるんだろうか。そう思って顔を近づけて観察すると、髪の毛が一本だけ飛び出していた。崩れたら結い直すところが見れるかもしれないと、私はその髪の毛を引っ張った。
『他人の言葉を全て疑っているわけではありません。もちろん全て鵜呑みにしているわけでもありませんが』
ツノから出てきた髪の毛は、うねうね動き、空に文字を描く。
『ただ自ら経験した物事と他人から伝え聞いた物事を明確に区別しているだけです。先日報告した彼女からの』
彼女とは私のことだろうか。
私はどきりとして、思わず強く引いてしまった。すると、ぽんっと栓が抜けるような手ごたえがあり、彼の身体はしゅるしゅると凹んでいく。空気が抜けているのだ。私は慌ててツノを押さえたけれど、もうどうにもならない。あっという間に、彼は抜け殻になってしまった。
ぎゅっと握っていたツノの感触がふいに消え、手を開いて見ると、べったりとインクがついていた。栓を抜いた髪の毛は、シーツの上に「SOS」とシミを作っている。そういえば、私のことを報告したと言っていた。誰かが彼を助けに来るのだろうか。私は手のひらを擦りつけ、シーツの文字を消す。彼を畳んでカバンにしまうと、急いでホテルを後にした。
彼のツノ
2016年12月3日
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