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朝顔染め

 薄明るい空気を吸い込むと咳が出る。空き地を囲むフェンスには、薄紫か薄桃色か、曖昧な色の朝顔が開きかけていた。夏も終わりで花数は少ない。
 あなたは笑っていた。柔らかそうな花を撫でた指で、茎を掴んで強く引く。朝顔はぶちぶちと音を立ててフェンスから剥がれた。
 あなたが踏みつけた花が土を染め、もがく私の爪の中に入る。桃色の土。目を閉じる。涙が一筋流れたけれど悲しいわけではなかった。
 どこか近くで鳴いていた虫の声が一瞬途切れる。足音に気付いて顔をあげると、あなたはもういなかった。

2013年8月27日
豆本掲載作
その他の印刷物・雑貨掲載作

長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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