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遺書

 彼女の遺書には自殺の動機は書かれていなかった。
『大切なことなので理由は誰にも言いたくありません』
 それを読んだとき、涙が出た。遺書を破りかけ、それはまずいと思い直して放り投げた。代わりに小さなテーブルをひっくり返す。綺麗に並べられた化粧品が床に散乱した。
 彼女には何も届かなかったのだと思うと悔しかった。
 床に膝をつく。そこから見上げた彼女は、生前と変わらない曖昧な笑顔を浮かべているように見えた。

2013年7月30日
豆本掲載作
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