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優しくできない

 彼は影を引きずって歩く。私はそれを踏む。前に進めなくなった彼はのろのろと振り返り、私に気付いた。彼が私を見る。楽しい。私が笑うと、彼は困ったようにゆっくり二度首を振った。
「私のこと、嫌い?」
 試しにそう聞いてみると、しばらく視線を泳がせた後、彼は小声で答えた。
「わからない」
「じゃあ、好き?」
「わからない」
 今度は即答した。楽しい。
 私の笑顔に顔をしかめて、ため息と一緒に、彼が聞き返した。
「俺のこと、嫌いなの?」
「大嫌い」
 一度言葉を切る。
「でも、大好き」
 それを聞いて彼は一歩下がろうとした。でも、私はまだ彼の影を踏んでいるから、彼は動けない。楽しい。

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