「黒猫が鳴いている」
特に話すこともなくて思いついたまま僕はそう言った。部屋の外からずっと猫の鳴き声がしている。うるさいくらいだけれど、それが今はありがたかった。退院したばかりの彼女は布団に寝たまま、気のない様子で聞いた。
「どうして? なんで黒猫だってわかるの?」
確かに、鳴き声だけで猫の毛色なんてわからない。
「ここに来るとき黒猫が外にいたから、鳴いているのはあの猫だろ」
階段の影に溶け込むように、真っ黒い猫が寝そべっていた。
「黒猫なわけないじゃない」
彼女はそう言って寝返りをうって僕に背を向ける。強い口調だった。
「あれは赤ちゃんの声よ」
小刻みに震える肩が、泣いているのか笑っているのか、僕にはわからなかった。
黒猫が鳴いている
2012年8月19日
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