あの日、両親は親戚の法事に出かけ、私は一人で留守番していました。よく晴れていて、外に遊びに行けないのが残念でした。
自分の部屋にいると台所の方から音が聞こえてきました。両親が帰ってきたのだと思って見に行くと、知らない女の人がいました。
「誰? どこから入ったの?」
玄関には鍵がかかっていたはずです。女の人は私を振り返り、にっこり笑って食卓にお皿を置きました。
「ちょうど良かった、今呼びに行こうと思ってたの」
私の質問には答えてくれません。お皿にはふんわりとしたオムレツが載っています。
女の人は私に食べるように促します。
「嫌。いらない」
「さあ、召し上がれ」
私が何度断っても女の人は聞き入れてくれません。笑顔でしたが、それが逆に怖かったのを覚えています。私はどうにもできず、恐る恐るオムレツを食べました。
その後の記憶は曖昧です。両親が帰宅したとき、私は食卓で寝ていました。お皿は綺麗に片付けられ、女の人もいませんでした。
母に謝りたかったのはこのことです。あのオムレツは母が作ってくれるものよりもずっとずっとおいしかったのです。
第112回タイトル競作【選評】○○○○×