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HOME > オレンジ宇宙制作室 > おなかがいたい

おなかがいたい

 産まれると彼女が言う。
「は?」
 思わず大声で聞き返してしまう。すると彼女は、
「子ども」
 短く答える。ぺたんこの腹をさすって、
「おなかがいたい」
 顔を歪める。苦しそうだ。
「え? 子ども?」
 彼女が妊娠しているなんて聞いたこともないし、とてもそんなふうには見えない。
「本当に? 産まれそうなのか?」
 そう聞くと、今まで苦しがっていたのが嘘のように、彼女は微笑む。
「名前はもう決めたの」
 腹に向かって愛おしそうに呼びかける名前は僕のだ。
「おなかがいたい」
 またすぐに腹を抱えてうずくまり、苦しがる。
「四時半になりました。外で遊んでいる小中学生は早く家に帰りましょう」
 夕方になると街中に流れる放送のセリフだ。
「四時半になりました。外で遊んでいる小中学生は早く家に帰りましょう」
「おなかがいたい」
「四時半になりました。外で遊んでいる小中学生は早く家に帰りましょう」
「早く帰ってよ」
 絞り出すような声で繰り返す。かと思ったら、また優しい声で囁く。
「もうすぐ産まれるね」
 僕の名前を呼ぶ。
 僕も自分の腹をさすった。
「おなかがいたい」

2011年2月17日
豆本掲載作
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長編・連載モノなどは「カクヨム」に掲載しています。

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