自由登校になってから初めて学校に行った。ちょうど五時間目だ。廊下の窓から、中庭を挟んだ新棟で二年生が授業を受けているのが見える。ドアを開けると教室には先客がいた。
「あ、びっくりした」
窓際の机に座って外を見ていた根岸さんは、振り返ってあたしを見て手を振った。
「何やってるの?」
あたしは根岸さんにそう聞いた。接点がなくてあんまり話したことはなかったのに、自然と言葉が出てきた。
「んー? 何も?」
根岸さんはそう言って、外に向かって左手を伸ばす。あたしは彼女の隣りに立った。グラウンドが見渡せる南向きの窓。緑のネットの向こうに曇り空が広がる。三年間名前を知らないままだった木が窓のすぐ下まで枝を伸ばしている。教室の中が寒く感じるのは暖房が入っていないせいか、二人だけしかいないせいか。
あたしも彼女の隣りの机に座った。足を伸ばして窓枠にかかとを乗せる。スカートのひだを意味もなく揃えてみた。
根岸さんは人差し指と親指でエルを作る。
「調子どう?」
「どうかなぁ」
あたしも左手を伸ばしてエルを作った。
「よくわかんないよね、終わってみないとさ」
「ねー」
片目をつむって、人差し指とグラウンドのライトの柱をそろえる。びっくりするくらい大きな音で響いたチャイムがまるで他人事に思えて、なんだか泣きたくなった。
創作家さんに10個のお題
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