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不響輪音

 輪っかが空を飛んでいる。黄色の大きい輪っかだ。太陽にきらりと光っているからもしかしたら金属製かもしれない。
「ねぇ、あれ」
 隣りを歩くお母さんの袖を引いて、私は空を指差した。輪っかは三つに増えていた。
「あれ、何?」
「ああ、あれはルーペよ」
「ルーペ?」
 虫眼鏡のことだろうか? よく見ると確かにレンズが入っているように見える。
 お母さんは私の頭をそっと撫でて、
「あれで日光を集めて火をつけるのよ」
「何に?」
「ほら、昨日、屋根が黒くなった家があったでしょ?」
 そういえば今朝、テレビのニュースで流れていた。誰の家だったかは覚えていない。たぶん私の知らない人だ。
「黒い屋根に火をつけて燃やすのよ」
 お母さんは微笑んだ。
 空のルーペはぶつかり合いながら飛んでいく。黄色の輪っかの縁で火花が散ったのが見えた。

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